
パイロットウォッチを攻略。人気ブランドと選び方の基本を総まとめ
パイロットウォッチはダイバーズと並び、腕時計の重要なジャンルの1つ。今回はパイロットウォッチとはどのような時計なのか、その解説と人気ブランドをご紹介します。
まずはじめに、パイロットウォッチの定義についておさらい
パイロットウォッチはダイバーズウォッチと異なり、工業規格のような明確な客観的基準はありません。ドイツでは『ジン』というメーカーが中心となってドイツ工業規格に基準を作る動きもありますが、数値化しづらい視認性を中心に規格を定めているためパイロット用という機能の決定的な条項はないのです。ですが、現場での数々のトライアンドエラーを乗り越えてブラッシュアップされてきた命を守る計器としての腕時計、それらが今もなおパイロットにとって大切なツールであることは間違いありません。
パイロットウォッチの本質。その誕生から現在まで
腕時計と飛行機はともに20世紀初頭の発明品。もともと腕時計は、パイロット用の航法の道具として必要とされていました。航空機と腕時計の進化は、誕生時期からしてほとんどシンクロしており、時間を測定することが飛行機の操縦にとって非常に重要だったことがわかります。そんなパイロットウォッチの歴史について、より詳しく紹介してみましょう。
誕生期
飛行機の位置の割り出しに必要な道具として誕生
各種計器がなかった頃の船舶と同様で、太陽の位置と飛行経過時間から自分の位置を割り出さないと事故につながる。これが20世紀の前半、パイロットたちが腕時計を欲した大きな理由です。アメリカでチャールズ・リンドバーグ氏や彼の師のウィームス大佐が航法を確立し、それに伴い時間計測や計算に便利な腕時計の開発が進みます。
今では腕時計の重要なデザインの1つとなった回転ベゼルで秒計測を行うというアイデアも、航空時計により確立したもの。スイスでは『ロンジン』が、彼らの要求に添う腕時計を製造していました。なお、その腕時計は現在でも「アワーアングル」というモデルとして残っています。
発展期
20世紀半ばから進む、航空時計の分化
世界中の時計メーカーが航空用と銘打った腕時計を開発しますが、その中でも『ブライトリング』がクロノグラフウォッチに画期的な機能を持たせたことで一躍脚光を浴びます。1942年に「クロノマット」、52年に「ナビタイマー」と、回転計算尺を持つ腕時計を登場させたのです。特にナビタイマーは、死活問題ともなる燃費計算などの計算もできる航空用計算尺を装備し、世界中のパイロットに大ヒットを飛ばします。
現在
空へのロマンを感じる、タイムピースとして所有する
航空機の発達とともに、航法関係の計算は航空機の電子機器自体が行うようになりました。しかし、機器がダウンしたときなどの緊急用に、タフで高機能な腕時計を求めるパイロットは絶えず、クォーツも、機械式も、航空用腕時計は進化を続けています。
一般人にとっては、視認性に優れている以外の機能性は無用のデザイン。しかし、タフネスや高い精度は、ロマンを感じさせる要素としてファンの根強い支持を受け続けているのです。
パイロットウォッチに込められる機能と意匠
数値化できない、空における“必要”な機能が詰まったパイロットウォッチ。それは視認性をはじめ、強度、計器としての各種機能など多岐にわたります。4つのポイントから、その魅力をレコメンド。
機能1
とっさの判断が求められる空では、視認性こそが命
パイロットが過ごす超高度の世界は、照明を消してしまうと昼でも暗いという環境です。したがって、腕時計の機能として最重要視されるのは視認性。夜光塗料をふんだんに使うなどして、インデックスと針の視認性を確保することはパイロットの命に関わる必須の仕様なのです。
この『ジン』の時計はかつてNATO軍が正式に採用していたモノ。シンプルで余計な意匠が省かれており、とにかく見やすい文字盤が特徴です。さらに、文字盤の外周リング(インナーベゼル)をリューズで回転させることで、分や秒計測に用いることもできます。これこそパイロットウォッチの機能美が集約された姿といえるでしょう。
機能2
航空機マニアでなくとも心踊る、ユニークな補助機能の数々
『ブライトリング』が初代クロノマットで導入し、ナビタイマーで完成させた計算尺機能。多くのブランドが追随し、付随する機能も多彩になっています。例えば『ハミルトン』のこちらの腕時計は、パイロットが行程において横風の影響を正確に計算できる偏流修正角計算機能付き。裏蓋には同機能に必須となるアングルスケールも刻印されており、機能がそのまま形となった所有欲を満たす意匠を形作っています。もちろん、クロノグラフや10気圧防水など基本となるスペックも搭載されています。
機能3
単純なタフネスもまた、持ち味
もともとミリタリー系のパイロットウォッチは、現代のスポーツウォッチの原型です。震動に見舞われ、暗くて見えず、周りは磁器だらけ……。そんな状況に対応するスペックを模索していたら、タフで、見やすく、耐磁性にもすぐれた時計になったわけです。そんんな高機能さはコンクリートジャングルで生き抜く我々にも有効。あらゆる外力に強い上位の『Gショック』のトリプルGレジストも、その延長上にできた腕時計の1つなのです。
機能4
昨今ではデジタル式のハイテクモデルも
今日の最先端のパイロットウォッチは極めて高機能なクォーツ時計になっていますが、時刻表示はアナログ式というのがいまだに多いもの。パイロットの方の話によれば、瞬間的な時刻の把握はアナログ時計のほうが見やすく、誤解のない数値表示を求めるならばデジタル表示が良いそうです。こうした近未来的なデジアナモデルも、“見た目”のためのデザインではなく、機能的な洗練を求めた結果なのです。これがパイロットウォッチ? という違和感があるかもしれませんが、そんな背景を知ると所有欲も沸いてくるというものです。
ルックスも大事。パイロットウォッチの選び方
パイロットウォッチの定義に客観的な指針がないため、「どうやって選んだら良いのだろう」と悩むのも無理はありません。ですが、それゆえにディテールや一部の機能さえ抑えておけば自由と言う捉え方もできます。ここではとくにその見た目を重視して、パイロットウォッチの選び方を見て行きましょう。
選び方1
細部の“パイロットウォッチらしさ”は大きなポイント
パイロットウォッチにはシンプルなモノも多機能なモノもありますが、名機と呼ばれるモデルには得てしてパイロットへの配慮が滲にじみ出ています。この『ハミルトン』はシンプルな見た目ですが、分や秒の計測に力点を置いて、分・秒のインデックスを大きくしています。これは、時速数百キロで移動する航空機の航法ツールであることがゆえん。回転計算尺のようにデザインが複雑なものでも、それはパイロットのためのもの。そんな背景を語れる腕時計を選ぼうという動機は大きなポイントであり、同時に良いアクセントとしても機能します。
選び方2
レザーベルトも、男らしさが宿るパイロット仕様のモノを
現代的な航空時計なら着け心地を重視すれば良いのかもしれませんが、クラシックな機械式時計を選ぶならベルトにもこだわりを持ちたいところ。たとえば、この2穴・2ピンで留めるバックルは、レバーが多いコックピットという狭い場所でバックルを引っ掛けて外れないようにという配慮を再現したもの。また、ベルトを鋲で留める意匠も、より強度を求めた古い航空時計の名残りです。現代では必要のない要素なのかもしれませんが、ミリタリーの現場で重用されたディテールは現代において男らしさの象徴として腕元で輝きます。
選び方3
スーツシーンでの着用も視野に入れて選びましょう
緻密なインデックスと、各種インダイヤルが描き出すメカニカル感。これらは誠実さと洗練が求められるビジネスの場においても、有用な意匠として生きてきます。ここで取り上げた『IWC』の「パイロットウォッチ」は航空時計らしい文字盤レイアウトながら、遠目にはクラシカルな印象も演出。平日のオンのシーンから愛用できるパイロットウォッチの1つです。
厳選。パイロットウォッチのおすすめブランド&モデル
ここで取り上げるパイロットウォッチは、比較的入手しやすいモデルを厳選しました。特に10万円未満の時計は、現代的なクォーツウォッチで時計初心者にも扱いモノが揃っており、50万円未満は現代的で実用性の高い機械式時計、50万円以上はブランドの背景にも格式が漂う大御所級の大定番になります。
▼取り扱いも楽々! 10万円未満のパイロットウォッチ
アナログならパイロットウォッチの基本を押さえたシンプルなモノ、デジタルウォッチなら逆に高機能かつ男らしいモデルが手に入るのがこの価格帯。実用性も備えた、3本をピック。
1本目
『ハミルトン』カーキ アビエーション エアレース 公式タイムキーパーモデル
伝説的な軍用時計の名を冠するコレクション「カーキ」の作品で、ミリタリーなパイロットウォッチらしさを醸し出しています。古い腕時計ではその視認性からミリタリー系にもシルバー文字盤は重用されており、インデックスを大きくしたスタイルは1940年代の航空時計に多く見られる仕様。実用的なクォーツ式ながら、そんなアンティーク感を再現している点も秀逸です。
2本目
『ラコ』カーキ パイロット
戦時中はドイツ軍にオブザベーションウォッチも納入していた、格式のある質実剛健なドイツブランド『ラコ』。42mmの程良いサイズの中に腕時計の天地を一目で把握するための三角マークや視認性の高さを追求するローマンインデックスを配置するなど、アビゲーションウォッチとしての機能はしっかりと継承されています。端正な文字盤に対し、20mmの肉厚で存在感のあるヌバックベルトがミリタリー感を加味。同ブランドといえば高コスパな機械式も人気ですが、こんなクォーツも手に取りやすいですね。
3本目
『カシオ』Gショック GW-A1100FC-1ADR スカイコックピット
耐衝撃性にくわえ、遠心重力、細震動にも耐性を確保したトリプルGレジスト構造を導入した『Gショック』の上位モデルです。電波受信機能、ソーラー発電機能、ワールドタイム機能などを備え、計器然としたアナログ表示に徹しています。武骨なルックスながら、リューズやボタンの操作性にも配慮が行き届いています。
▼10万円以上~50万円未満のパイロットウォッチ
一般に憧れブランドと呼ばれるメーカーが名を連ね始めるのがこのあたり。ロマン溢れる機械式時計の中でも名品が並ぶので、長く付き合える1本を探してみましょう。
4本目
『ハミルトン』カーキ Xウィンド デイデイト
『ハミルトン』の「カーキ アビエーション」シリーズにおいて名前に”X”が付くと、特殊な表示機能付きを示します。このモデルは、偏流修正角計算機能と呼ばれる、パイロットが横風の影響を計算することで進むべき磁方位を割り出せるようにしたモノ。文字盤の表示はコックピットの計器をイメージソースとするなど、デザイン面でもロマンが溢れる1本に。
5本目
『ジン』103.SA.B.E
『ジン』といえば「103」というくらい、ブランドの中では認知度が高い型番。60年代にドイツ空軍で使用されていた1本を忠実に再現したモデルであり、定番モデルではメンテナンスに手間を擁しないという点であえてアクリル風防を採用していたりします。今作は2018年に発表された限定モデルです。ヴィンテージのパイロットウォッチをデザインソースとしてインデックスは夜光塗料が焼けたさまを表現。アクリル風防ならではのドーム形状をサファイアガラスで再現するなど、ワンランク上のスペックを実現しています。
6本目
『IWC』マークXVIII プティ・プランス
1939年にイギリス空軍に制式採用されたマークXIから続く、パイロットモデル。すでに生産終了となっている2012年に誕生したマークXVIIを、よりクラシック路線に乗せたのがこのマークXVIIIです。マークXVIIゆずりの帯磁性能は特筆もので、2018年に開発した軟鉄製インナーケースの搭載がそれをサポートしています。
7本目
『オリス』ビッグクラウンプロパイロットワールドタイマー
『オリス』のパイロットウォッチと言えば、の「ビッグクラウン」。こちらは大ぶりなインデックスがパイロットウォッチらしさを物語る、ワールドタイマー付きのモデルとなっています。クラシカルな意匠を押さえつつサテンテキスタイルストラップなどで現代らしさも注入しており、スーツの腕元などとも相性抜群です。
▼50万円以上のパイロットウォッチ
『ブライトリング』に『ベル&ロス』と、武骨で計器然とした本格派が揃う50万円以上のプライスレンジ。1本持っておけば一生モノの、3本を厳選しました。
8本目
『ブライトリング』ナビタイマー1 B01 クロノグラフ 43
1952年に登場した、航空用回転計算尺を装備したモデルです。アウトベゼルを回せば、それに連動して、文字盤外周のリングが回転し、計算ができます。基本操作を熟知したベテランパイロットには、現代のデジタルな計器に頼るより、この時計の計算尺のほうが使いやすいという人さえいるほど。大ぶりすぎるとオンでは使いにくい、という方はこんな43mm径ぐらいも狙い目。
9本目
『ブライトリング』クロノマット44 フレッチェ トリコローリ
1942年に汎用回転計算尺を搭載して登場しましたが、83年に機能を一新。現代的なスペックを備えたクロノグラフに衣替えし、イタリア空軍アクロバットチームの公式時計に採用されました。視認性、操作性、装着感、精度など死角のないクロノグラフとして高い評価を得ており、現行ではハイレベルな自社ムーブメントも搭載。現代で最高峰のクロノグラフの1つです。
10本目
『ベル&ロス』BR05
4隅にビスを打った武骨なスクエアシルエットで、腕時計業界を震撼させた「BR01」シリーズ。実際の航空計器をモチーフにした同モデルは、まさに現代のパイロットウォッチと呼ぶにふさわしい1本に仕上がっています。そんな『ベル&ロス』がラグジュアリースポーツの文脈でリリースしたのが、この「BR05」。そのシルエットに”らしさ”を残しつつ、よりビジネスシーンやフォーマルな場にも似合うように再解釈を行っています。防水性能も100mを備え、実用性も満点です。
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