
手巻き式の腕時計に再評価の波。その魅力から隠れたメリットまで徹底解説
自動巻きが主流にもかかわらず、あえて手巻きの腕時計を選ぶ愛好家が増えています。そう、手でゼンマイを巻き上げる時間はオーナーの義務ではなく最高の“特権”なのです。
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腕時計シーンに新たな波。今また、手巻きがアツい
男は手間を愛する生き物。レコードで音楽を聴いたり、古い車やバイクを手入れしたり……、道具を実用品として使うだけでなく、その姿かたちを愛で、手間そのものを味わう。こうした楽しみは、昨今にわかに脚光を浴びている手巻き式の魅力にも通じるものがあります。手間のかからない自動巻きやクォーツがすっかり普及した今、あえて“ゼンマイを手で巻く”という作業が必要な手巻きを選ぶ時計愛好家が増えつつあるのです。
実際、スイス時計の名門『ロンジン』は手巻き式の復刻モデルを定期的にリリースし続けていますし、日本を代表するブランド『グランドセイコー』でも、近年手巻きのドレスウォッチが人気を博しています。その他のブランドでも品薄になっている手巻きのモデルがちらほら。これは単なる時刻を知るための実用品や個性を主張するための装飾品としてだけではなく、眺めて楽しむ趣味性の強いアイテムとして腕時計を捉える時計愛好家が増えているからに他なりません。
そんな手間を愛する大人のために、本記事では手巻きの腕時計が持つ魅力に改めて迫ります。
改めて復習。手巻きの歴史と、自動巻きとの違いをおさらい
そもそも手巻きの腕時計とは何でしょうか? 機械式時計の針の動力源はムーブメント内にあるゼンマイから生み出されます。巻き上げられたこのパーツが元の形状に戻ろうとする際に動力エネルギーが生まれ、振り子の原理によって一定の周期で時が刻まれるのです。このゼンマイの巻き上げがポイントで、手巻きは手でリューズを回してゼンマイを巻き上げるのに対し、オートマティックとも呼ばれる自動巻きのムーブメントはローターと呼ばれるパーツが回転することで自動的に巻き上げられる機構を持っています。
そして当然ながら手巻きの方が長い歴史を持っており、そのルーツは17世紀ごろから作られ始めた懐中時計にあるといわれています。以降、18世紀に創業した『ブランパン』や『ブレゲ』といったさまざまなブランドが手巻きムーブメントを進化させてきました。自動巻きが台頭したのは1920年代のこと。英国の時計職人が特許を取得し、1920年代に『ブランパン』と組んで商品化に成功。1930年代には『ロレックス』をはじめ、各ブランドがこぞって自動巻きムーブメントを発表しました。以降、ゼンマイを手で巻く必要がない自動巻きの腕時計が広く受け入れられるようになっていきます。
なお、手巻きには、あくまで理論上ですが、ゼンマイのテンションとともに精度が若干落ちるというデメリットも指摘されていました。とはいえ、メジャーな存在ではなくなったものの手巻きの腕時計の人気は根強く、今なお多くのブランドが手巻きの腕時計を作り続けています。薄くて軽い、耐久性に優れる、といった利点もあるものの、手巻きが愛され続ける1番の理由は“ゼンマイを手で巻き上げる”という手間そのものに価値を感じる人が少なくないからでしょう。一部の時計愛好家にとってゼンマイを手で巻くという手間は、レコードに針を落とすように、はたまたコーヒー豆をミルで挽くように、腕時計と対話する儀式として心を豊かにしてくれるものなのです。
ロマンチックなだけじゃない。手巻きの時計には、こんな長所が
実は手巻きの腕時計の魅力は、手でゼンマイを巻くという手間の味わいだけではありません。薄くて軽い、故障の発生率やメンテナンスのコストが低い、手巻き式ならではの名作が存在するなど、実際的なメリットもいろいろ。手巻き式のモデルが根強い人気を誇る理由はこうした点にもありそうです。
長所1
自動巻きよりパーツが少ない分、薄く軽く仕上げられたモデルが多い
手巻きの腕時計には、自動巻きのようにゼンマイを自動的に巻くローターを組み込む必要がありません。そのため、ケースを薄く、かつ軽くすることができるという大きなメリットがあります。ケースの厚さが1cmを切るモデルも少なくなく、シャツの袖に引っかかりにくいことからドレスウォッチとしても重宝されます。また、ヴィンテージライクな小ぶりの腕時計を好む人にとっても、手巻きならではの薄くて軽いケースは魅力的に映るはずです。
長所2
機構がシンプルだからこそ。壊れにくいうえにメンテナンスコストも上々
前述したように手巻きの腕時計はローターを必要としないため、機構がシンプルなのが特徴です。そして部品数が少ないということは、故障しにくいというメリットにもつながります。また手巻きなら、衝撃でローターが外れるといった自動巻きならではの心配も無用。また、リューズのシャフトも手で巻く必要があるため、一般的に太い頑丈なものが採用されています。もちろん、オーバーホールにかかる費用も自動巻きより安く済みます。
長所3
手巻きのままであることに、意味がある。実は名作揃いの手巻き式
長い歴史を持つ手巻きの腕時計には、手巻きだからこそ価値がある名作が数多く存在します。例えば、アメリカ軍の軍用時計をルーツに持つ『ハミルトン』の「カーキ フィールド メカ」などは質実剛健な手巻きムーブメントにこそ価値がある腕時計といえるでしょう。また、『オメガ』の「スピードマスター」もオリジナルを再現したモデルは今なお変わらず手巻き。往年の名作を復刻させる『ロンジン』のヘリテージラインでも、手巻きのモデルがラインアップされています。腕時計の持つ歴史や由緒に重きを置く時計愛好家は、自動巻きの利便性よりも、オリジナルにより近い本格的な仕様にこそ心惹かれるのです。
これもある意味手巻きだからこそ。“裏スケ”なら機械の全貌が鑑賞可能
機械式時計はソリッドバックに限る、という硬派な時計愛好家も少なくありませんが、その醍醐味を存分に味わいたいならムーブメントの動きを見ることができるシースルーバックを選ぶのも1つの手。ただ、自動巻きの場合は、ローターによってムーブメントの内部が見えにくくなっているモデルも少なくありません。その点、ローターのない自動巻きならそれぞれの部品が複雑精妙に連動して時を刻む様子を見ることができます。また、手巻きの腕時計自体が趣味性の高いものなので、コート・ド・ジュネーブやポリッシュといった装飾や仕上げにこだわったムーブメントを持つモデルも多く、オーナーの目を楽しませてくれるはずです。
手巻き時計の故障の原因。ゼンマイの“巻き上げ過ぎ”には要注意
自動巻きよりも故障が少ないといわれる手巻きの腕時計ですが、1つ注意するべきポイントが。それが、リューズの巻き上げ過ぎ。ゼンマイがすべて巻き上がるとリューズはそれ以上動かなくなりますが、この状態から無理に巻き上げようとするとゼンマイが破損してしまう危険性が……。なかにはリューズの巻き上げ過ぎを防止する機構を持つモデルもありますが、通常の手巻きモデルを使っている場合はリューズの巻き上げには要注意です。加えて、1日の中でこまめに巻き上げるというやり方も機構に負担をかけてしまいます。ムーブメントのパワーリザーブにもよりますが、1日1回、決めた時間に巻き上げるというように習慣にするのが理想的です。
歴史的名機から、気軽に楽しめる1本まで。おすすめ手巻き時計12選
生産しているブランド自体が少なく、選択の幅も自動巻きと比べるとやや限られる手巻きの腕時計。しかし、機械式時計の名門ブランドの多くが手巻きの名作をラインアップしています。それは歴史や技術力の象徴であると同時に、機械式時計のロマンを解するファンを抱える証し。当記事の締めくくりとして、時計史に名を刻む名家よりリリースされている12本の手巻きモデルをご紹介しましょう。
1本目
『パネライ』ルミノール 1950ベース
『パネライ』も手巻きの腕時計の味わいを重視するブランドの1つ。2019年に発表された本作には約8日間のロングパワーリザーブを備えた自社製の手巻きキャリバー“P.5000”が搭載されています。イタリア海軍のために開発されたブランドの看板モデル「ルミノール」にふさわしいタフなムーブメントです。2層構造の立体的なサンドイッチ文字盤は視認性も◎。サイズ:44mm、SSケース、手巻き
2本目
『ティソ』ティソ ヘリテージ ポルト
1919年に発表された歴史的モデル「ティソ ヘリテージ ポルト」の姿を再現。アールデコの美学を体現するトノーシェイプケースと曲線的なアラビアンインデックスが優雅なムードを、レイルウェイが配されたスモールセコンドがレトロな趣を醸成します。そんなノスタルジックなデザインに合わせ、手巻きキャリバー“ETA7001”が搭載されています。サイズ:約32×約43mm、SSケース、手巻き。
3本目
『ハミルトン』カーキ フィールド メカ
手巻きが似合うミリタリーウォッチといえば、『ハミルトン』の定番「カーキ フィールド メカ」。1960年代の軍用時計を復刻した当モデルはリューズを時刻調整の位置まで引くと針が止まるハック機能が特徴です。現在では当たり前ですが、これは戦場で兵士同士が時刻を合わせる際に使われた由緒正しき機能です。ムーブメントには手巻きながら80時間ロングパワーリザーブを備えた“H-50”を搭載。サイズ:38mm、SSケース、手巻き。
4本目
『ミドー』マルチフォート スケルトン
スケルトンダイヤルとシースルーバックによって、裏表両面から手巻きムーブメントの動きを鑑賞できる1本。時計の心臓部であるテンプを中心に、波紋が広がるようなデザインのダイヤルが強烈な存在感を放ちます。フェイスは大ぶりながら、ブラックPVD加工が施されたチタン製ケースのおかげで着け心地は軽やか。手巻きのキャリバー“ETA6498-1”を搭載しています。サイズ:44mm、チタンケース、手巻き。
5本目
『ロンジン』ヘリテージ ミリタリー 1938
1938年製の軍用時計を再解釈した「ヘリテージ ミリタリー 1938」。当時の懐中時計の面影を感じさせる大ぶりな43mmケースと、6時位置に配されたスモールセコンドが存在感を放つモデルには、傾斜したベゼルやオニオン型のリューズなどオリジナル譲りのディテールがふんだんに盛り込まれています。ムーブメントは約53時間パワーリザーブを備えた“L507”。サイズ:43mm、SSケース、手巻き。
6本目
『オリス』アートリエ キャリバー111
見どころは、約10日間ものロングパワーリザーブを備えた『オリス』の技術力の集大成というべき自社製手巻きキャリバー“111”。ケースバックはシースルー仕様ゆえ、精緻なムーブメントの動きを鑑賞することが可能です。9時位置にはスモールセコンドが、3時位置には残りの稼働可能時間を正確に把握できるノンリニアパワーリザーブインジケーターを装備。サイズ:43mm、SSケース、手巻き。
7本目
『ウブロ』ビッグバン メカ-10
『ウブロ』の看板モデル「ビッグバン」に、ツインバレル式によって約10日間のロングパワーリザーブを実現した手巻きキャリバー“HUB1201”を搭載。フルスケルトンダイヤルから見えるムーブメントの姿は迫力満点です。6時位置にはパワーリザーブインジケーターが搭載されており、残量が残り3日になると3時位置の小窓が少しずつ赤色になる特殊機能もポイント。サイズ:45mm、チタンケース、手巻き
8本目
『IWC』ポートフィノ・ハンドワインド 8デイズ
イタリアの高級リゾート地の名が冠せられた、クラシックコレクションからの1本。ムーブメントには、約8日間のロングパワーリザーブを実現した自社製の手巻きキャリバー“59210”を搭載しています。「ポートフィノ」らしいミニマル&エレガントな顔立ちの中で、9時位置のパワーリザーブインジケーターがアクセントとしても機能。同シリーズには珍しい、大ぶりなケースが存在感を放ちます。サイズ:45mm、SSケース、手巻き。
9本目
『ユンハンス』マイスター ハンドワインド
19世紀から続くドイツブランドの名門『ユンハンス』。その1930~60年代のアーカイブを蘇らせた定番モデルが、「マイスター」です。同ブランドの専売特許たるバウハウス然としたミニマルデザインに加え、手巻きムーブメント“J815.1”によって実現した厚さ7.4mmの薄型ケースも洗練された印象を強めます。風防には、ヴィンテージウォッチのような味のある風合いを醸し出すプレシキガラスを採用。こんな細かな仕様が、手巻き式ファンの心をくすぐります。サイズ:37.7mm、SSケース、手巻き。
10本目
『ノモス』タンジェント
ドイツ時計の聖地と呼ばれる、グラスヒュッテ生まれの『ノモス』。その代表作である「タンジェント」は端正なラウンドケースとホワイトダイヤルに鮮やかに映えるブルー針、そして6時位置のスモールセコンドを特徴としています。シースルーバックになっているため、42時間のロングリザーブを備えた自社製手巻きムーブメント“ノモス α”の動きを楽しむことができます。サイズ:35mm、SSケース、手巻き。
11本目
『グランドセイコー』メカニカル SBGW231
やわらかい曲線を帯びたアイボリーカラーのダイヤルや、先端に曲げ加工が施された針、昔ながらのボックス型のサファイアガラスなど『グランドセイコー』らしい上品なクラシックスタイルを踏襲。ムーブメントは約3日間のパワーリザーブに加え、メムス製法により安定した精度を実現した手巻きキャリバー“9S64”を採用しています。裏蓋はシースルーバック仕様となっており、コート・ド・ジュネーブが施された美しい顔立ちを存分に鑑賞可能です。サイズ:37.3mm、SSケース、手巻き。
12本目
『ジャガー・ルクルト』レベルソ クラシック ミディアム スリム
世界三大時計ブランドにムーブメントを供給している『ジャガー・ルクルト』は、高い技術力が要求される角型手巻きムーブメントもお手のもの。こちらは180度回転する文字盤とベゼル周囲に施されたアールデコ様式の装飾が優雅なムードを醸成するブランドの永世定番、「レベルソ」です。ケースにはピンクゴールドが使用されており、約42時間のパワーリザーブを備えた自社製の手巻きキャリバー“822/A2”が搭載されています。サイズ:約24.4×40.1mm、18kピンクゴールドケース、手巻き。
この記事の掲載アイテム一覧(全12商品)
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『パネライ』 ルミノール 1950ベース
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『ティソ』 ティソ ヘリテージ ポルト
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『ハミルトン』 カーキ フィールド メカ
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『ミドー』 マルチフォート スケルトン
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『ロンジン』 ヘリテージ ミリタリー 1938
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『オリス』 アートリエ キャリバー111
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『ウブロ』 ビッグバン メカ-10
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『IWC』 ポートフィノ・ハンドワインド 8デイズ
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『ユンハンス』 マイスター ハンドワインド
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『ノモス』 タンジェント
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『グランドセイコー』 メカニカル SBGW231
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『ジャガー・ルクルト』 レベルソ クラシック ミディアム スリム
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