ハマる大人が続出。プロに聞くドレスシューズの磨き方
革靴磨きは大人のたしなみ。とはいえ、プロセスを知らずに自己流で靴を磨くのも考えもの。そこで、正しい革靴の磨き方を『ユニオンワークス』の藤澤さんに取材しました。
男にとっての靴磨きとは、何か
ちゃんと革靴を磨いてますか? 磨いているとしても、正しく磨けていないとしたら効果は半減。場合によっては大切な靴を台無しにしかねません。そこで本企画では、靴磨きのプロに正しい方法を教えてもらいました。靴磨きの魅力や意味も、大人の男性ならばぜひ押さえておきましょう。
監修/藤澤直人さん
靴の販売員を経て、2010年に株式会社ユニオンワークス入社。翌年、同社青山店に配属。現在は、20年以上の歴史を持つシューリペアショップ『ユニオンワークス』の青山店店長を務める。
「思いを込めれば靴が育つ」。プロが語る靴磨きの醍醐味
どうして靴磨きが必要なのでしょう? そんな初歩的な疑問から正しい磨き方、靴磨きの意味まで、『ユニオンワークス 青山』の店長、藤澤さんにうかがってみました。ファッションビギナーでもわかるよう、丁寧に説明してもらいましたので、きっと靴が磨きたくなるはずです。奥深い靴磨きの世界へようこそ!
■ドレスシューズってやっぱりケアが必要なんですか?
「靴を1日履いていると、コップ1杯分の水分を吸収するといわれています。本当は、1日履いたら2~3日は休ませる必要があるんですね。当然、汗の汚れやほかの汚れも付きますから、少なくても月に1回はきちんとケアする必要があります。栄養、温度、湿度が揃うとカビが発生してしまいますし、数か月に1回くらいはスッピンにしてあげてほしいですね」
■靴を“スッピン”にするとはどういうことでしょう?
「詳しくは靴の磨き方で解説しますが、リムーバーなどで汚れなどを落とすことを指しています。そうすることでカビの栄養にもなる古いクリームなどを落とすことができますし、靴磨きの効果が高まります。靴磨きは女性のお化粧に似ていると思っているんですが、いったんスッピンにしてあげてから、シュークリームなどで化粧するというイメージです」
■正直、男性にとっては面倒じゃないですか??
「靴磨きには革を育てるという側面もあります。少年の頃、野球のグローブにオイルをなじませて柔らかくしたことはありませんか? ほかにもサッカーのスパイクとか。そんな原体験とリンクすることもあって、靴磨きにハマる男性はけっこう多いんですよ」
■靴も育てるということですね?
「野球で使用するグローブと同じく、靴も買ってすぐにケアを始めるのがベスト。ビフォアケアと言ったりするんですが。店頭に並んでいるときは、それこそスッピンの状態。シュークリームを塗るだけで革に栄養が与えられますし、汚れやキズが付きにくくもなります」
■履いた後もケアすべきだと思いますが、その楽しみとは?
「段々と革のツヤや味わいが深まり、靴が育っていくのが実感できると思います。ブラウンの靴はわかりやすくて、色が抜けたり、逆に濃くなったり。色を作るという感覚ですね。新しい魅力が見えてきますし、靴を育てること自体も、その過程をながめているのも楽しいものなんです」
■育てるための靴磨きが上達するにはどうすればよいでしょうか?
「私はスポーツと一緒だと思っています。この記事や本などから理論を学ぶことはできますが、実践しないと上達はしません。ですからまずは始めてみてください。うまくいかない時は、われわれのような専門家に相談していただければ解決すると思います」
靴磨きに必要な道具とは?
靴磨きをするのに欠かせないのが道具類。それぞれに異なる意味があり、どれが欠けても靴磨きを完璧に仕上げることはできません。ウェス (布) は使い古したハンカチやTシャツでも代用できるため、ここでは確実に購入すべき5種類の道具を紹介します。
リムーバー
余分なクリームやワックスを拭き取ることができるリムーバー。汗染みなどの汚れも落とすこともできます。化粧落としのような役割りで、リムーバーでしっかりと落としておかないと、その後のステップも効果が薄れてしまいます。伸びのよい液体状のものがおすすめ。
ブラシ(豚毛)
ハリやコシがあり、やや硬めの触感が特徴的なピッグへアブラシ。汚れをしっかり落とす際に用いるのがおすすめです。ブラシの使用用途にはさまざまな考え方があるため、『ユニオンワークス』などの専門店に相談しながら購入するのがベスト。
ブラシ(馬毛)
ソフトでしなやかなホースヘアブラシは、シュークリームを塗布したり、から拭きで仕上げたりするのに用います。ただし、シュークリームが付着したブラシはから拭きに使わないほうがベター。また、シュークリームの色ごとに揃える必要がありますので、数本揃えて使い分けるのがセオリーです。
シュークリーム
革に栄養やツヤを与えてくれるのがシュークリーム。補色の役目も担っているため、靴の色に合わせて揃えるのが鉄則です。ブラック以外のカラーの場合、迷ったら1トーン明るめを選んでおくと失敗が避けられます。伸びのよい水ベースのタイプがおすすめ。
ワックス
光沢を生み出す鏡面仕上げに不可欠なのがワックス。シュークリーム同様、靴のカラーに合わせて色を選ぶ必要があります。さまざまなグレードがあるため、『ユニオンワークス』などで専門家に相談しながら選ぶのがおすすめです。
プロが伝授。革靴磨きの正しいステップとコツ
ついに実践編。編集フカザワの眠っていた靴を引っ張り出し、藤澤さんに磨いてもらいました。実際の手順に沿ってステップごとに細かく分け、正しい方法だけでなく美しく仕上げるコツも解説。参照すれば、すぐにでも実践できるはずです!!
編集フカザワが数年間しまい込んでいた靴。コバまわりの白い部分の大半はカビで、アッパーも乾燥しきって見るからに不潔でみすぼらしい印象です……。このような状態はまれですが、それにしてもひどい。処分される直前の状態ですから、靴磨きビギナーの編集フカザワならサジを投げても当然ですね。こんな状態から履ける状態まで、靴磨きで回復できるのでしょうか?
汚れを落とすのが最初のステップ。カビが発生してしまっている場合は、除菌用のウェットティッシュなどで拭き取ることから始めます。ぬらしただけのティッシュでは、かえってカビ菌を広げてしまう可能性が高いので、アルコールなどを使った除菌用のウェットティッシが最適です。
次はブラシで汚れを除去。普段ホコリを落とすだけなら比較的ソフトな馬毛ブラシでも構いませんが、しっかり落とすためにはやや硬めの豚毛ブラシがおすすめです。動物の毛は革が傷みづらいので、適度に力を入れてしっかりとこすります。汚れが入り込みやすいコバの隙間などは、毛先を押し込むように意識して入念にブラッシングします。
次はリムーバーで、クリームやワックスの残り、汗汚れなどを取り除きます。毛羽のない硬めのウェス (布) を選びつつ、指に巻ければ準備完了。軽く湿らす程度にリムーバーを付け、なでるように汚れを拭き取ります。このとき、拭いた後が残らないよう、小さな円を描くように拭くのがポイント。念のため、最初は目立たないうしろ側から拭き始めましょう。
忘れがちなのがタンの部分。拭きにくい場合はあらかじめシューレースを外しておくと便利です。シューレースが汚れたり傷んだりしている場合は、これを機に交換するのもおすすめです。
次にシュークリームを塗布。全体でパール大2~3粒を使用するイメージで、少しずつウェスに付け足しながら全体に塗り込んでいきます。
革靴の表面に指でシュークリームを点々と付けてしまうと、水玉状の色ムラができてしまいかねないので、避けたほうが無難。着古した革靴のかかとから小さな円を描くように広げていきつつ、少しずつクリームをウェスに足す。この工程を繰り返しましょう。
ウェスの後はブラシで仕上げ。ウェスに比べて広い面積をカバーでき、要領よく塗布できるのが大きな利点です。さらに、タンなどの段差がある部分にも使いやすく、毛先が入り込むので細かい部分までシュークリームが届きます。しっかり押し込むように塗っていきましょう。
最後はから拭きです。実はかなり重要なステップですので、忘れないようにしましょう。革の表面に残っている余分なクリームなどを拭き取っていくのが主な目的で、ウェスを用いて小さな円を描くように拭いていくのが基本です。しっかりムラなく拭き取っていくことが大切。
コバの溝までしっかりと拭いていきます。クリームが残りやすいので、最後まできちんと仕上げましょう。
コバだけでなく、ステッチ部分や甲のシワなども念入りに。ステッチやシワの方向に沿って、ムラなく拭くのがきれいに仕上げるポイントです。
ウェスでから拭きした後に、さらにブラシで仕上げるのもおすすめです。柔らかい馬毛のほうが使いやすく、繊細に仕上がります。また、素早くこするのもポイント。摩擦熱でクリームが適度に溶けることで、ツヤが生まれてきます。
「汚れ落とし」→「リムーバー」→「シュークリーム」→「から拭き」というステップで通常の靴磨きは完了。カビまみれの最初とは雲泥の差に仕上がっています。適度にツヤがあるアッパーは、着こなしの品格を高めてくれるはずです。
さらにスペシャルケア。鏡面磨きとは?
通常の靴磨きに加え、一層エレガントに見せることできる「鏡面磨き」を追加することもできます。決して難しくはありませんが、簡単に極めるのも困難。そんな鏡面磨きのポイントを紹介します。
使用するのはワックス。ワックス自体には水分が含まれないので、ワックスと水を配合しながら塗っていきます。その配分も重要で、藤澤さんいわく「最初はワックスを多めにしてしっかりと塗布し、徐々に水を多くして細部を仕上げていくと美しく仕上がりやすいんです」とのこと。
また、鏡面仕上げはコーティングするというイメージ。革靴のトゥを見るとわかるとおり、ツヤが出ているようでも革表面には凸凹があります。このような細かいクレーターをワックスで均一に埋めることで、光沢が生まれるのです。
ヒール部分からワックスを塗っていくのがセオリー。その後にトゥを塗り、輝くまで磨きます。
鏡面仕上げはヒールとトゥの部分のみでOK。屈曲する部分は鏡面磨きで仕上げても、折れたり曲がったりした際に細かいひび割れなどが生まれ、すぐに光沢が失われてしまうからです。また光沢の変化により、フラットに映りがちなブラックの靴に立体感が与えられるという効果もあります。
鏡面仕上げという名前のとおり、自分の影が映るくらいまで光沢が出たら完璧。経験豊かな藤澤さんは数分でそこまで仕上げられますが、初心者なら1日掛かりで輝かないことも珍しくありません。冒頭で説明したとおり、クレーターを埋めるイメージ、ワックスと水の配分が大切なポイント。残るは実践あるのみです!
比較するまでもなく……。Before & Afterをチェック
正気を失い、不潔な印象しかなかった靴が見事に蘇りました!! 鏡面仕上げによる光沢の変化が立体感をつくり出し、非常にエレガントなドレスシューズといった印象!
革靴は、磨き続けてようやく完成するアイテム
面倒なイメージもある靴磨きですが、道具を揃えてステップやコツを把握すれば決して難しくはありません。続けるうちにおっくうに感じなくなるのはもちろん、靴の変化が見て取れて違った楽しみが生まれてくるものです。経年変化により、味わいや愛着が深まった革靴こそ本当の完成品。いや、変化し続けるということは永遠に完成しないのかもしれません。とりあえず、育てるための靴磨きを楽しみつつ実践してみましょう! 不明点やさらなるアドバイスは、『ユニオンワークス』かTASCLAPに問い合わせてみてください(笑)。
取材協力/UNION WORKS AOYAMA
DATA
住所:東京都渋谷区神宮前3-38-11パズル青山 1F
TEL:03-5414-1014
営業時間:12:00~20:00 水曜定休日
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