トゥールビヨンの基礎知識。成功者が手にする超絶機構の教科書

トゥールビヨンの基礎知識。成功者が手にする超絶機構の教科書

機械式時計のムーブメントは緻密な設計のうえに成り立っており、高度な機構を持つものを複雑時計と呼ぶ。その象徴の1つ、トゥールビヨンに関する知識をここに網羅しよう。

ワダ ソウシ

2019.02.19

腕時計

世界三大複雑機構の1つ、トゥールビヨンとは

腕時計界には“世界三大複雑機構”と称されるものがある。長期間に渡ってカレンダー調整が不要な「永久カレンダー」、ゴング音が時刻を知らせる「ミニッツリピーター」、そして今回取り上げる「トゥールビヨン」の3つだ。これらは技術レベルの高い限られたメーカーのみが製造できるメカニズムのため、希少かつ高額な傾向にある。ゆえにブランドバリューをアピールするカテゴリーであり、ユーザーにとっては満足度を高める特別な存在といえる。

絶対精度の天敵“姿勢差”を攻略するべく生まれたトゥールビヨン

まずトゥールビヨンが開発された背景について説明したい。発明者はフランスの天才時計師、アブラアン-ルイ・ブレゲ氏。数々の革新的な懐中時計や置き時計、機構を生み出し、“時計界の進化を2世紀早めた”と称えられている。

彼は各パーツが受ける重力の影響を均一化することによって、時計がどんな姿勢でも安定した精度を維持できないか研究した。そしてトゥールビヨンを考案し、1801年に特許を取得している。この複雑機構は総じて部品点数が多く、精工さも求められる。さらに熟練の時計師が時間をかけて組み立て、デリケートな調整も要求されるのだ。とくに懐中時計時代において高精度を実現する有効なシステムとして重宝され、1930年代には腕時計サイズまで小型化することに成功した。

現代では超絶技巧を知らしめるための尺度であり、ステータス

高額なことを抜きに考えれば精度の面でトゥールビヨン搭載のメリットは大きく、重宝してきた時代があった。しかし1969年に安価で比較にならないほど精度の高いクォーツが登場したことで、残念ながらトゥールビヨンは衰退することになる。

その後1980年代後半に起こった機械式時計ブームによってトゥールビヨンも再び日の目を見ることとなり、復活。今日においてはコンプリケーションの“顔”として、各社が技術力をアピールする意味合いが強く、キャリッジの軽量化や多軸トゥールビヨンの開発によってスペック自体も向上。ユーザーにとってのステータスシンボルになっている。

さながら、“渦”。人に語れるようになれる、トゥールビヨンの仕組み

トゥールビヨンとはフランス語で“渦”を意味し、辻風や竜巻などを表す際に用いられる。ずばりその名の通り、渦を巻くように回転することからこう命名された。ではムーブメント内のどこが渦を巻くかというと、通常は個々で独立しているテンプ、アンクル・ガンギ車など脱進機と調速機をカゴ状のパーツにまとめた「キャリッジ」(画像中央部)と呼ばれる部位である。

次にこのキャリッジがどのように渦を巻くのかを、一般的な機械式ムーブメントとの違いから説明する。

通常のムーブメントでは、ゼンマイがほどけることによって格納している香箱(一番車)が回転し、二番車→三番車→四番車→ガンギ車を介して脱進機と調速機にエネルギーが伝わる。一方のトゥールビヨンは四番車が固定されており、ガンギ車の中央部分のカナ(小径の歯車)が四番車と噛み合って自公転することで、脱進機と調速機が収まるキャリッジが回転する仕組みになっている。

なお、ガンギ車の自公転スピードはテンプによってコントロールされており、キャリッジは1分で1回転する仕組みになっている。そのため結果としてキャリッジが秒針の役目を果たすことになり、トゥールビヨンを搭載した腕時計はセンターに秒針を持たないモデルがほとんである。

当然ながら“秒”における精度が正確化されることで、必然的に二番車に付随する分針と時針も正しく表示される。ここは通常の機械式ムーブメントと同じだ。なお、トゥールビヨンはブランドや設計によって構造に差があるため、解説した内容は基本原理ということを知っておこう。

トゥールビヨンは大きく分けて3種類

時計コレクターの憧れの的であるトゥールビヨンは、大きくは3タイプに分別される。いずれもブレゲ氏が懐中時計用に開発したオリジナルの機構を発展させたものだが、見た目が異なるので比較的区別しやすい。

種類1ノーマルトゥールビヨン

アブラアン-ルイ・ブレゲ氏が1795年に開発したポケットウォッチ向けを正常進化させ、小型で機能的なメカニズムにした腕時計用トゥールビヨン。2000年以降、製造技術の進歩によって量産化が可能になり、メジャーブランドからも手の届く価格帯の搭載モデルがリリースされている。ただし独創性では「フライングトゥールビヨン」らにやや劣る。

種類2フライングトゥールビヨン

一般的なトゥールビヨンは表裏両側にブリッジを備えるが、キャリッジの軸を裏ブタ側だけで支えることで文字盤側で固定するブリッジを省き、あたかも表面からはキャリッジが浮いているようにデザインした仕様を「フライングトゥールビヨン」と呼ぶ。1989年、老舗『ブランパン』が腕時計で初めて実用化したとされる。キャリッジの動きをよりダイレクトに楽しめるため、マニアからの評価が高い。

種類3ジャイロトゥールビヨン

名門『ジャガー・ルクルト』が開発したジャイロトゥールビヨンは、トゥールビヨンを3D球体に収めた世界初の機構。球体を成したキャリッジが回転することで、重力の影響を最小にするとともに、見た目もユニークで仕上げが美しいと高い評価を得ている。素材に軽量で強度が高いアルミニウムなどを使用していることも特筆すべき点だろう。

頑張れば手が届く? 『タグ・ホイヤー』による100万円台モデル

ここでリーズナブルなトゥールビヨンについても触れておこう。それは2016年デビューの「タグ・ホイヤー カレラ ホイヤー02T」。フライングトゥールビヨンを搭載しつつ、100万円台という“衝撃”は世にトゥールビヨンを広めるきっかけになった。しかも人気の高いクロノグラフやスケルトンダイヤル、精度を保証するクロノメーター認定、そしてカレラ固有のスポーティかつクラシカルなデザインで、あらゆる世代を虜にしたことが記憶に新しい。

なぜこのようなプライスが実現したかというと、製造におけるオートメーション性能がアップし、大幅に作業効率が良くなったことが理由として挙がる。

成功者のためのトゥールビヨン搭載モデル3選

パフォーマンスにとどまらず、トゥールビヨンはステータスを表す腕時計の最高峰に位置付けられている。だからこそ本物志向の一流の間で話題に上るし、着けていれば一目置かれる。クラシック顔、雲上、モダンとテイストの異なる3本を選んでみた。

1本目『ブレゲ』クラシック グランド コンプリケーション Ref.5317BA/12/9V6

トゥールビヨンの元祖本家、『ブレゲ』の定番ラインから登場したハイコンプリモデル。ギョーシェ装飾を施したシルバー仕上げのゴールド製ダイヤルに、12時位置に5日間パワーリザーブを表すインジケーターを、6時位置にトゥールビヨンを備える。直径39mm、厚さ11.15mmの18Kイエローゴールドケースに、職人が手彫りでレリーフをあしらった自社製のキャリバー587DRを搭載。自己補正ブレゲひげゼンマイ。シースルーバック。自動巻き。

2本目『ジャガー・ルクルト』マスター グランド トラディション トゥールビヨン パーペチュアル Ref. Q5042520

デザイン性の強い「レベルソ」とは異なり、ミニマリズムにフォーカスした『ジャガー・ルクルト』の「マスターコレクション」。そのなかでも、トゥールビヨンと永久カレンダー、おまけにムーンフェイズまでも搭載した究極とも呼べるモデルがこちらだ。42mm径の小ぶりなケースにこれらすべてを収めきれたのは、『ジャガー・ルクルト』の技術力が生んだ自社開発の自動巻きムーブメント、キャリバー985あってこそ。18Kピンクゴールドケースを採用。

3本目『ゼニス』クロノマスター エル・プリメロ トゥールビヨン スケルトンRef. 49.2520.4035/98.R576

「エル・プリメロ」の面影を残しつつ、オープンハート部分にトゥールビヨンが覗くルックスに。ケースの素材をセラミックに、ストラップにパンチングを施したラバーを採用することで、スポーツテイストを感じさせる1本に仕上がっている。ケース径45mm。自動巻きムーブメント、キャリバー4035Bを搭載。

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