
クロノグラフウォッチの基礎知識。1番身近な複雑機構を知ろう
腕時計の中で最も身近な複雑機構、クロノグラフ。あなたはどのくらい語ることができますか? 時計好きを自称するなら知っておきたい“いろは”をギュッとまとめました。
スポーティさがたまらない。クロノグラフウォッチが愛される理由
『オメガ』の「スピードマスター」や『ロレックス』の「デイトナ」、『ブライトリング』の「ナビタイマー」など、クロノグラフを代表するモデルといえば、簡単に挙げられるだけでも誰もが知る名作揃い。数ある腕時計の複雑機構の中でも、ここまで一般的に知られているのはクロノグラフくらいのものでしょう。そんな馴染み深いクロノグラフですが、その魅力といえばやはり針が多いことによる見た目のメカメカしさ、そして実際にストップウォッチとして機能するというロマン……。実用するかどうかは別問題で、我々はその歴史やスタイルに心惹かれているワケなのです。ファッション的視点からも、腕にクロノグラフがあるだけでスポーティさや存在感を主張できるというのは、そんな共通認識が世界的に形成されているということの証左に他なりません。
その誕生に歴史あり。クロノグラフが誕生するまで
少し歴史の話をしましょう。というのも、意外と知っているようで知らない方も多いのではないかと思うのです。そもそもクロノグラフとは、ギリシア語で時間を意味する“Chronos”と記すを意味する“Graphos”を組み合わせた造語。主にストップウォッチ機能のことを指していることはご存じの通りでしょう。単にクロノグラフと呼ぶ場合、現代では“ストップウォッチ機能付きの機械式腕時計”のことを指しますが、実はかなりの複雑機構なんです。ストップウォッチの機構自体はイギリスの時計職人ジョージ・グラハムによって1702年に考案されたもの。それが小さな腕時計の形になるまでには、実に200年以上の歳月が掛かっていることからもわかるでしょう。時計(懐中時計)に初めてクロノグラフが搭載されたのは1870年代。そして腕時計型のクロノグラフはといえば、19世紀になってやっと誕生したのです。
その間しのぎを削っていたのは『ロンジン』、『ブライトリング』、『ホイヤー(現タグ・ホイヤー)』といったブランドたち。1913年には『ロンジン』が世界初のクロノグラフ腕時計を作ると、翌年には『ホイヤー』が後を追います。しかし、今日に続くクロノグラフ腕時計の基本形を作ったのは『ブライトリング』でした。同社が発表したのは1915年と後発だったものの、他にはないプッシュボタン(スタートボタン)を持つクロノグラフで第一次世界大戦をきっかけに急速に普及します。その後1934年に針のリセットボタンも備えた2プッシュクロノグラフ「プルミエ」を発表。これが現在のクロノグラフ腕時計の基本形だといわれています。
横目、縦目。それぞれのクロノグラフが与える印象とは
いろいろなクロノグラフを眺めていると、見た目がいくつかの種類に分類されることに気が付きます。中でも購入を検討するときにこだわりたいのが、いわゆる“横目”と“縦目”。サブダイヤルが横に並んでいるか、縦に並んでいるかだけの違いなのですが、腕に着けてみるとこれが全く異なるイメージを醸成するんです。
まず、横目。『ロレックス』の「デイトナ」や『ブライトリング』の「ナビタイマー」に代表されるように、クロノグラフといえばこの横にサブダイヤルが並んだデザインを最初に思い浮かべる人が多いでしょう。どっしりとした安定感と重厚さがあり、高級感を強く演出してくれる正統派です。
対して縦目は、スポーティでスタイリッシュなイメージを持っています。『タグ・ホイヤー』の「カレラ」や『IWC』の「ポルトギーゼ」などがその筆頭。より若々しく見せたいなら、縦目を選ぶのが正解です。もちろんすべてがこの限りではありませんが、選ぶ際の1つの基準にしてみると求めている1本が見つかりやすくなるかもしれませんよ。
計時だけじゃない。クロノグラフ×メーターが拡げる可能性
クロノグラフは、紛れもない計器です。テクノロジーが進んだ現代では実感しにくいことかもしれませんが、メーター=計算尺を組み合わせることで、時間だけでなく、速度や距離などを正確に知ることができるのです。
機能1
速さを求める男には。平均“速度”を計測する、タキメーター
パイロットウォッチから人気に火が点いたタキメーターは、1kmを何秒で走行(飛行)したかによって、平均速度を割り出すことができます。使い方は簡単で、クロノグラフをスタートさせ、1kmを通過した時点でストップボタンを押すだけ。そのときにクロノグラフ針が指しているタキメーターの目盛りが、そのまま平均時速となります。平均速度がわかれば目的地までの到着時間も割り出せるため、レーサーや飛行機のパイロットにとっては片手で操作できる利便性も含めて欠かせないものだったのです。
機能2
飛行機乗りのために。光と音で“距離”を計測する、テレメーター
光と音でどのように距離を測るのかというと、それぞれの速度の違いを利用します。大砲などの閃光と音から敵の距離を割り出すために生み出されたものですが、現代であれば、雷が落ちた地点までの距離を計測する際に試してみることが可能です。雷が光ったときに計測をスタートし、次に音が聞こえたらストップ。簡単ですね。デザインとしてはレトロな雰囲気を持ったモデルが多いのも、特筆すべき点でしょう。
機能3
医療現場で活躍。“脈拍”を診る、パルスメーター
珍しいところでは、脈拍を測ることができるパルスメーターも存在します。医療用クロノグラフに備えられていたもので、脈拍数が30回に達する秒数から1分間の脈拍数を計算することができるため、昔の医療現場には欠かせない計器でした。また、似た機能で呼吸数を計るためのアズモメーターというものも存在します。つくづくクロノグラフは便利な機構ですね。
名品ばかり。今購入できるクロノグラフウォッチ5選
リアルな計器としての歴史を持ち、その見た目の良さからも常に男心をくすぐるクロノグラフ。まず知っておきたいのは、現在人気を集める有名モデルです。名品と呼べる憧れクロノグラフを一挙にご紹介します。
1本目
『ロレックス』コスモグラフ デイトナ Ref. 116500LN
スポーツクロノグラフの代表的な存在として、やはり『ロレックス』の「デイトナ」は欠かせません。1963年にプロのカーレーサーのために誕生したモデルで、その後50年以上経った今でもほとんど姿を変えず、圧倒的な存在感を発揮し続けています。均整の取れたダイヤルに、傷がつきにくいセラクロムベゼルを採用した第6世代の「デイトナ」は、完成度の高さから非常に人気が高いモデル。白黒のコントラストが美しい白文字盤のこちらは、その中でもさらに人気のあるカラーです。
2本目
『ブライトリング』ナビタイマー B01 クロノグラフ 43
『ブライトリング』といえばクロノグラフ。クロノグラフといえば『ブライトリング』。航空業界と縁が深かったことから、いち早く航空用の回転計算尺を備えた時計を開発しました。それが、1952年に登場した「ナビタイマー」。文字盤の周囲に目盛りが記されており、飛行距離や時間、燃料消費などさまざまな計算ができる画期的なモノでした。2018年以降の現行モデルは、すっきりしたロゴ周りとシースルーバックが特徴です。
3本目
『タグ・ホイヤー』カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツ クロノグラフ
創業は1860年のスイス。F1レースのスポンサーをしていたことからも、モータースポーツと親和性の高いスポーティなイメージがある『タグ・ホイヤー』。今年ブランドが160周年を迎えたことを記念して、「カレラ」コレクションは新たに自社製キャリバー「ホイヤー02ムーブメント」を搭載しました。ムーブメントが変わったことでこれまで縦目クロノグラフだったのが横目になり、ガラッと雰囲気が変わっているところが注目点。それに合わせてデザインもややエレガントなエッセンスを取り入れ、より大人な1本に仕上げられています。
4本目
『IWC』ポルトギーゼ クロノグラフ
クラシックな装いのクロノグラフも、人気があるジャンルの1つ。『IWC』の「ポルトギーゼ クロノグラフ」はその代表的なモデルです。そのルーツは、船乗りたちが使用した航海用時計にあります。縦に2つ並んだサブダイヤル、そしてブルースチールのクロノグラフ針がデザイン上の特徴で、絶妙に知的な雰囲気を演出しています。また、ベゼルが非常に薄く文字盤が大きいため、実際の41mmというケース径以上に存在感があります。
5本目
『ロンジン』ヘリテージクラシック クロノグラフ 1946
クロノグラフの発展に大きく貢献してきた『ロンジン』。1940年代に作られた時計を復刻する形で生まれたのが「ヘリテージクラシック クロノグラフ 1946」です。ケース径40mmと小振りなボディに、2カウンターのシンプルなクロノグラフを搭載。12時位置のロゴも当時のものを使用するなどしたこだわりのデザインは、オリジナルモデルを忠実に再現しています。非常にクオリティの高い仕上がりながら、こなれたプライスがつけられているのも『ロンジン』らしいですよね。
その奥深さに触れるなら。クロノグラフの上位機種3傑
スポーティであったりクラシックであったりと、さまざまなスタイルがあるクロノグラフです。しかしもう1つ、ラグジュアリーな方向に進化した高級路線のクロノグラフも見応えがあります。ここからは、そんな視点で厳選したモデルをご紹介します。
1本目
『ブレゲ』クラシック クロノグラフ 5287
偉大な時計師であり、時計史における重要なタイムピースをいくつも発明してきたアブラアン-ルイ・ブレゲ氏。その魂を受け継ぐ『ブレゲ』にはクロノグラフはいくつもありますが、こちらはモダンに進化した1本です。クラシックと名がつく通り、30分積算計や手巻きであることなどディテールとしては伝統的でありながら、ケースやラグの形状、そしてクロノグラフ針の赤とダイヤルの黒とのコントラストによって程良くモダンなスタイルに昇華されています。
2本目
『ロレックス』ヨットマスターII
現代のクロノグラフは非常に多様な進化を見せており、特に90年代以降はより顕著になっていきます。『ロレックス』が初めて開発したレガッタクロノグラフを搭載した「ヨットマスターII」がその象徴。レースのスタートに合わせ、最大10分間のカウントダウンを設定することができるこのモデルは、ビーチリゾートが似合う「ヨットマスター」とは一線を画す、本格的なヨットレースのためのスポーツモデルです。
3本目
『A.ランゲ&ゾーネ』1815 クロノグラフ
スイス以外のブランドで唯一世界5大ブランドに数えられる『A.ランゲ&ゾーネ』。「1815クロノグラフ」は、18Kホワイトゴールドのケースとクラシカルなブラックダイヤルが調和した最高級のクロノグラフです。外周に配したパルスメーター、スモールセコンドと30分積算計のレイルウェイ分目盛りが、伝統的な雰囲気をさらに盛り上げてくれます。フライバック機能とプレシジョン・ジャンピング・ミニッツカウンター機構を搭載した複雑なムーブメントを積んでいながら、非常に薄型でケース径も39.5mmと手に馴染みすいサイズ感も魅力です。
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