技術とこだわりが集約。“日本らしさ”で選ぶ、高品質な大人服
『アダム エ ロペ』の新作は、日本メーカーとの協業により生まれたアイテムがとりわけ豊富。そのラインアップから覗く、日本のプロダクトならではの魅力とは?
トラッド×トレンド×日本。注目すべき大人服は『アダム エ ロペ』にある
この時期迷いがちなのが、秋冬に着るスタメン服選び。大人としては、モノ選びの1つの視点として品質へのこだわりを持ちたいところ。もちろん、デザインやシルエットなどで取り入れやすさやトレンドへの意識も忘れずにいたい。そういった我々のニーズを汲んでいる『アダム エ ロペ』は、今季の新作に“Lo-fi(=Low-Fidelity)”というテーマを掲げている。90年代初頭に誕生した音楽のジャンルである“Lo-fi”は、優れた機材が整わない環境のもとで行うレコーディング時の録音技術の総称を指す。音のゆがみやひずみをあえて取り入れることにより、独特でソリッドな音に仕上がるのが特徴だ。
そんな音を奏でるように、トラッドベースのアイテムへさりげなくトレンドを乗せることで従来にはない新鮮さを表現。中心となっているのは、日本の名だたる実力派メーカー。なぜ日本なのか。それらの良さとは何か。『アダム エ ロペ』実店舗での経験を生かし、現在はEコマースを担当する前原進也氏(写真右)、同ブランドのマーチャンダイザーである吉田智仁氏(写真中)、そしてTASCLAP編集長の小山拓洋(写真左)の3名が、実際に手に取り袖を通しながら新作と日本メーカーの魅力を語る。
“日本だから”ではなく、“結果的に日本”となる
前原氏(以降:前原):「お客様のリアルな声を聞くと、MADE IN JAPANだからとか日本の何県で作られているから買うという方はそこまで多くはないんです。アイテムが多様化している中で手にとったもの、それがたまたま日本ならではのプロダクトだったというケースが多いですね。それだけお客様の目が肥えているということなんでしょう。確かに作りは丁寧でどこか温かみがある。歳を重ね、私自身も日本ならではの技術や素材による魅力をより実感しています」
吉田氏(以降:吉田):「『アダム エ ロペ』として、お客様に対してよりいいモノを届けたいがゆえに選んだところ、それが日本のモノだったというのが今回の製作の経緯です。日本メーカーは、自分たちの強みを磨き進化させていった結果、繊細な質感、長く愛せる強度、色褪せない美しさを実現してきました。それが支持される最大の理由。また、日本メーカーのいい意味で頑固な姿勢もあるかなと。というのも、単純にこういうのを作ってくださいと頼んでも簡単に受け入れてくれないんです。こだわりを曲げない信念が世界に誇れるモノ作りに通じているのではないでしょうか」
吉田氏が好例として挙げたのが、大阪に本拠を置く毛織物メーカーの日本毛織(※以降ニッケ)。「ニッケさんは、誰でも気軽にオーダーできる生地屋さんではありません。軍、学校、鉄道などの制服を作り続けてきた歴史がありますし、その積み重ねにより作られた生地はどこも真似できない。今回採用した生地もその1つ。一度袖を通していただければその良さはわかってもらえると思います」
売る側も買う側も抱く“安心感”
小山氏(以降:小山):「日本メイドだからとわかってて手に取るケースは少ないという話がありましたが、TASCLAPの記事においても見た目や雰囲気からアイテムを選ぶ読者の方は多いんです。ただ、いざ購入となると決め手を求めます。“なぜ買うのか”という問いに免罪符のようなものが欲しいんですよね。その点、“日本”というキーワードは決定打になりやすいと思います。安心感があるというのが適切でしょうか。いいな、と感じて選んだモノが日本で生まれた素材だったり、縫製の技術が使われていたりすると長く着用できるとか大切に着たいって思えますよね」
吉田:「なるほど、参考になりますね。我々としては、地方の産業自体が人手不足で徐々に衰退している中、ブランドとして強く打ち出すことにより日本の伝統産業を活性化させたいという思いも少なからずあります。彼らを支える要素にもなりますし、売る側としても安心して届けられる。アイテムを通してもっと日本のモノ作りを伝えていけたらいいですね」
小山:「買う側だけでなく、売る側も安心できて伝統産業も活性化する……、いいところしかないですよね。TASCLAPは、単に“これいいよ”と編集が気になったモノだけを発信しているワケではなく、ブランドが持つ本質的な良さも読者ニーズと絡めてわかりやすく記事に落とし込むように意識しています。その点、今回の『アダム エ ロペ』のラインアップは魅力的で紹介のしがいがありますね」
高品質で大人らしい。『アダム エ ロペ』が展開する注目の秋冬アイテム
日本をキーとした『アダム エ ロペ』の魅力ある新作の数々。トレンドばかりを追うのではなく、ベースにしっかりとしたクオリティが担保されているからこそ、多くの大人を惹きつける。なかでも注目のアイテムを、製作に携わった日本メーカーの紹介とともに掘り下げたい。
注目メーカー1
ニッケ(大阪)
日本毛織株式会社、通称・ニッケは、大阪に本拠を置く毛織物メーカー。120年余りの歴史により培われた技術をベースとした生地は業界内でも信頼が厚く、組成をこと細かに記載した膨大なアーカイブも圧巻。中には、他では真似できないモノもある。3色で展開されるジャケット、シャツ、パンツのセットで使われている生地もその1つ。特有のハリ感は上質な空気をその身に纏い、丈夫でシワになりにくい。ブルゾンのセットアップは、軍の制服として採用されてきた生地を使用。ニッケ100年サージと呼ばれ、当時の厳しい環境下でも耐えうる高密度が特徴で長く着用できる。
注目メーカー2
鈴憲毛織(愛知)
愛知県一宮市を中心とするウールの町、尾州地区を代表する繊維メーカー。“Lo-fi”をテーマに掲げ、冬の主軸としてロングコートに再度スポットを当てている今季の『アダム エ ロペ』において、1,000以上を数える同社の生地サンプルはまさに宝の山。無地とクラシカルな柄がラインアップとして並ぶステンカラーコートは、品のある色合いとゆったりとした今どきなフォルムが印象的。共地を採用したスラックスとのコンビは新たなセットアップの指針となる。他にも、ボタンレスのノーカラーコートやオーソドックスなチェスターコートは、ウール100%のやさしいタッチと温もり、ふくよかなフォルムによる包容力がたまらない。
注目メーカー3
森織物(愛知)
森織物もまた尾州地区に居を構えるテキスタイルメーカー。オーダーサイドの意図やニュアンスを汲みながら、尾州地区の実力派ファクトリーと連携し質の高いアイテムを作り上げる。茶のハウンドトゥースの裏地にはチェック柄を、ヘリンボーンの裏地にはモノトーンのハウンドトゥースを落とし込んだこのリバーシブルコートにその一端が垣間見える。袖口は、通常であればハンドソーンで行うような高度な仕立て。軽さも徹底的に追及し非常に着やすい1着に仕上げている。
注目メーカー4
奥山メリヤス(山形)
山形県寒河江市にある奥山メリヤスは、国内でも指折りのニットメーカー。畦編みやリンキングの丁寧さなど美しいアイテムへと仕上げる高い技術はもちろん、現代的な空気感も汲み取り、それをアイテムへと落とし込む感度の高さが抜群。防寒を担保し野暮ったさをいなす程良い高さのネック、特有の美しい畦編み、ドロップ気味のショルダーと、その強みは今回のニットにも存分に生かされている。
注目メーカー5
フクエー(新潟)
新潟県加茂市にあるニットメーカー・フクエー。同社もまた日本有数のニットメーカーとして名を馳せる実力派だ。特に素晴らしいのは、横段の畝が特徴的なミラノリブに代表されるハイゲージアイテム。その見本が本作誕生の端緒になっている。身頃を繊細なハイゲージで編み、ショルダー部分は異なる編み地で。それにより、肩周りにある程度の自由を与え、着やすさを助長している。
ただ着るだけでサマになる。三者三様のスタイリング提案
今回紹介したアイテムがただ着るだけで洒落感が漂うことを、先ほど登場した3名が証明してくれる。どんなイメージを抱きながらスタイリングしたのか、解説を交えながら秋冬をイメージしたコーデを見ていく。
格式の高いレストランでは、ジャケットのセットアップという装いがマナー。しかし、普段着慣れていないと、逆に浮いてしまう可能性も……。吉田氏が着た「ニッケ」のセットアップはそんなときの代替案としてイメージしたそう。「ドレスコードのハードルが下がっているとはいえ、カジュアル過ぎてはお店に失礼。これなら品を出しつつも肩肘が張ることはありません」。一方、冬のスタイルに取り入れたのは鈴憲毛織のステンカラーコート。ラフながらもクリーンなアイテムで構築。それでいてアウターの1番上のボタンを留め、コーデに鮮度をもたらした。
前原氏は、「単品でも使えますけど、セットアップで着たほうがかっこいい」というニッケのブルゾンのセットアップを主役に抜擢。「ワークやミリタリーといった部類に多く見られるアウターですが、品のある生地を使うことで大人っぽく仕上がります」。もう1つのスタイリングは、鈴憲毛織のノーカラーコートで。「シンプルな分、ノーカラーによりインナーとのレイヤリングを存分に楽しむことができますよね。コートがエレガントな分、ニットポロやスニーカーで抜け感を加えました」
「秋はテーラードジャケットではないセットアップに注目」と話すTASCLAP編集長・小山が選んだのは、日本毛織謹製のセットアップ。グレーがかったベージュの色味で上質感を堪能しながらも、インナーにパーカーを合わせてカジュアルダウンを試みた。一方では「この冬に関してはきれいめ、上品といったところを打ち出していきたい」とのイメージ通り、森織物のリバーシブルコートと奥山メリヤスの浅Vのニットで。「最近はVネックが新鮮。大胆に開いたモノよりも浅いほうが取り入れやすいですよね。インナーは、シャツではなく白Tでラフさを。そんなカジュアルさとアウターによる品格のバランスが気分です」
Photo_Keiichi Ito
Text_Ryo Kikuchi